「イッツ・オンリー・トーク」絲山秋子





イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)


第96回文學界新人賞受賞/第129回芥川賞ノミネート
絲山秋子処女作
(第二作「第七障害」も同時収録)



絲山秋子。名前からして気になる作家さんだった。「絲」っていう字がいいよね。そんな絲山秋子の作品を初めて読んだのだが、それが彼女のデビュー作なのはちょうどよかった。

舞台が「蒲田」であることがまず重要。このちょっと汚れた、空気の薄い下町によって主人公がくっきりと浮かび上がってきた。一流企業の総合職を経て精神的な病を患い入院歴のある、30代の女性。それを取り囲む鬱病のヤクザや童貞の都議、分別ある痴漢。それぞれクセのある男だけれどその登場や関わり方が本当に自然で、好感が持てる。

主人公の女性が空気のように消え入りそうになりながらもしっかり、生きている。

濃くない、サラっとした文章ながら、人間関係やその描写に緻密な組み立てがあって素晴らしい。女性は読んだほうがいい傑作。

http://www.akiko-itoyama.com/booklist/onlytalk.html


「イッツ・オンリー・トーク」は、作者自身も住んでいる蒲田の街を、ぶらりぶらりと飲み歩いているような小説だ。店のそれぞれに鬱病のヤクザや童貞の都議、分別ある痴漢など一癖ある客ばかりが集っているのだが、彼らと飲む酒は生々しくもカラッとしていて、嘘がない。つまみもそれほど高級なものばかりではないが、調理の腕は 確かである。「眠れるスペースとしての男が欲しいだけだ」「自炊ができるようになった。性欲が出てきた」?何気に出された皿に手をつけると、歯ごたえが良くて杯がすすむ。ついあちこち梯子して店を出ると、夜風が妙に爽やかだ?そんな感じである。

さまざまな人物を介在して語られる主人公の姿は、ちくちくとリアルで目が離せない。ストーリーはあちこちへと展開するが、話のリズムは乱れない。音数少なく控えめながら、きっちりとビートを叩きだすドラマーがバックにいるようだ。例えばチャーリー・ワッツとか。ちょっと誉めすぎか。しいて言えば全部で15あるタイトルのつけ方?そこで選ばれた言葉と本文との距離感?など少々違和感を持つ部分がないわけでもないが、文芸誌新人賞の作品としては間違いなくひとつ抜けている。気になる作家の登場です。最後の段落の「ロバート・フリップがつべこべとギターを弾き…」には、座布団100万枚!


読み終わった後「この感じ、もしや…」と思った。そうしたら当たり。以前みた映画やわらかい生活の原作がコレだった!
蒲田のタイヤ公園。ヤクザ。寺島しのぶ。。。 ああ、そうだったのか。。。
ヴァイブレータ」と「やわらかい生活」。両方、もう一度みたくなった。


「やわらかい生活」監督インタビュー

「やわらかい生活」紹介