昔の彼?




これを書いていてなんだか火がついたので、昔の彼の話でもしましょう。
(って誰かに言っているわけでもないんだけど)





大学時代の彼とは数年間続いたので、私にとっての「彼氏」という概念の
根本になった人だった。


出会いのきっかけは「スニーカー」。

大学では教養の授業で「体育」があった。2週間に1回の体育。
「バレー」だった。

教養科目なので、自分の学部(文系)だけでなく色んな学部の人がいた。

私はいつものように体育館にある木製の靴箱に
自分の靴を入れようとした。
そこで目に留まったのが…… ある adidasのスニーカー。



それは
かなりはきこまれていて、汚れていた。

白地に、赤と青の線。


そのほっそりしたスタイルは見たことがなかった。

きっと、
ヴィンテージかデッドストック。




「かっこいいな」

一瞬
「どんな人が履いているんだろ」
と思った。





バレーの授業では、男女混合でチームを作り、対戦をした。


私のチームには大学で見かけたこともない男子が2人いた。
その中の1人がとても気になった。


ビートルズばりのマッシュルームヘア。
180センチで、50キロ程度の細い体。


上は、adidasのスカイブルーのジャージ。
下は、これまたadidasのハーフパンツ。


「青」だった。


その「体育着」とマッシュルームカット。


その人は、何故だかとてもよく笑った。
ハハハハハハハ  ケラケラケラ・・・

他愛もないことがとても愉快、といった感じだった。



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私は、その2週間に1回の体育がとても楽しみになっていた。


ある日、体育が終わって靴箱に近づいたとき、
そのマッシュルームな人が靴を履こうとしていた。


あの、adidasだった。


そしてadidasを履き終わると、彼は日なたへ
飛び出して、いった。

光の中に、去っていった。



私にはその光景が決定的だった(ような気がする)。



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2週間に1回の体育。
しかもその彼とは1回も話したことはない。


私はその頃、同じ学部の女子とつるんでいて
冗談まじりに
その「マッシュルームな人」について話題にしていた。


私の友達が「マッチ棒」というあだ名をつけた。


髪型はマッチの点火部分のように丸く、
その下についている体はマッチ棒の軸のように細い。

(失礼なことだが、そのときはそれで盛り上がっていたし
私の友達は最後までそのあだ名で呼んだ)


授業の半期が終わりそうな時期にさしかかり、
体育の授業もそろそろ終わりそうだった。


私は、「マッチ棒」の名前も学部も学年も知らない。

キャンパスでは「マッチ棒」に会えないものかと
注意を払っていたけれど
その体育の授業以外で見かけることはなかった。


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私は「おかしいな」と思った。

体育の授業以外の時間(つまりほとんどの日・時間)、
「マッチ棒」のことが気になるのだ。


adidasのイイ感じのスニーカー。
マッシュルーム。
細い脚。
笑い顔。



私は何故だか「彼のことを知りたい・知らなきゃ」と思った。


一番の友人Åに相談すると
Åがある案を持ち出してきた。

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私は、Åと共に薄暗い大学内の廊下を歩いた。


ドアをノック。
出てきたのは体育の授業の先生(女)だ。


「お伺いしたいことがあるんですけど…」と
初めて個人的に話してみる。


私は体育の授業が同じある男性に500円を借りました、
でもその人の名前も学部も分からないので返しよう
がないのです…できたらその人の名前と学部を
教えてもらえないでしょうか…



はい。
でも先生もそれだけの情報では分かるわけがないですよね。


しかしちょうどいいことに、
その体育の授業で記念撮影があり、出席者全員が
写っている写真があったのだ。


先生はその写真を出してきて
「どの人?」と聞いた。


私たちは、その写真を注意深く覗き込んだ。




どきーーーーーん




最後列で、肩から上だけ見えている「マッチ棒」を発見した。


「あーーー!!!この人です!」

「あ、それならね…」と先生は名簿をめくって教えてくれた。


名前・学部・学年。


私たちはそれをサっとメモし、お礼を言って
教官室をあとにした。



カビのようなにおいがするひんやりとした
廊下。


私たちはそこをキャーキャー騒ぎながら
通っていった。


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よくもまぁこんな大胆な?ことができたなぁ
と、今になって思う。


でも、甘酸っぱい思い出だし
それによって色んな経験が
できたのだから、良かったと思う。


「マッチ棒」はそんなこと、
最後まで知らなかったのだけれど。