「百万円と苦虫女」





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「誰も知っている人がいない場所でテキトーに生きてみたい」「この決まりきった日常を飛び出したい」なんて思う人がいたら、この映画を観てはいかがだろうか。


私はあるよ、そういうこと。っていうか、そう思うことがよくあったよ。




百万円と苦虫女」という一筋縄ではいかないタイトル、大きなプロモーションなし、蒼井優主演、と並べば「ちょいミニシアター」的でゆる〜〜〜い香りが漂っており。
感動でも恐怖でも猜疑心でもいいので何らかの「刺激」が欲しかった私にとっては、「ゆるすぎる映画では?」という予測でした。


しかしー!観終わってみると、なんと満たされた気持ちになったことか。なんと幸せで、なんと生きていく元気が出る映画だろうか。



蒼井優がハマリ役。これまでの少女性とはまた違うどこか毒をもった女の子。
友達がおらず、人と安易に関わることをしない。それを気に病むことなく淡々と強く、細く、生きている。穏やかな空のような生き方なのだけど、時に「ブス、死ね!」と口走ってしまう凶暴性(?)も持ち合わせてもいる。「こういうキャラだ」とまでは掴めない鈴子の人物像が、ゆらりゆらり、と映画の中をさまよってとても人間的で魅力的。こういう「ゆらぎ」があるから人間っておもしろいんだよなぁーなんて思った。




「100万円貯まったら次の町へ」というのがこの映画の一言ストーリー。
蒼井優演じる「鈴子」は、あることがきっかけで実家を出、海辺・山村・地方都市…を「100万円が貯まるまで」という期限で渡り歩いていく。3つの町の対比がクリアで観ている私たちもちょっとした旅をしているよう。ちょっとしたロードムービー的なエッセンスも盛り込まれているのが良い。


どの町においても、鈴子は淡々と業務をこなし、特に楽しいことをするでもない。鈴子の姿に、若くして「世捨て人」となった人間を見ることができて、なんだかワクワクする。それは自分がそうできないからだろうな。(そして「これは孤独ではなかろうか?」「自分はこれに耐えられるだろうか?」と自然に考えてしまった)


何より「100万円」というリアリティのある数字がいい。そしてそれを通帳を見ながら節約をしながら貯めていく鈴子の様子が、とってもいい。


こうして印象的な色や出来事がある2つの町を経て、たどりついた「東京から一時間の町」(茨城?)での「人間的な」感情の動きがおもしろい。淡々と生きている鈴子も「人間の女の子なんだ」と思える。



鈴子がアルバイトする園芸コーナーの「中島くん」が森山未來ってのもなかなか良い。そして中島くんの鈴子へのお金の借り方や嘘のつき方も、観る人をドキドキさせて、最後まで操っていくんだよなぁー。


「淡々」をベースに、可能性のある非日常性の事件が絶妙に絡み合って「実は中身の濃い」映画に仕上がっていると思う。


泣くべき映画ではないのに、なぜか最後はジーーーーンってきてしまった。


主題歌 * 原田郁子クラムボン)「やわらかくて きもちいい風」ピッタリ。いくちゃんの声ってやっぱり唯一無二だねん。


もう一度、観たいです。


※いつも蒼井優を見るたびに「細っそーー!!!」と。その腕の長さと細さに見惚れてしまう。んで、あの一歩間違えば脂ぎってるぽく見えるクセっ毛の黒髪も、蒼井優だからギリギリ魅力的に見える。