私のおばあちゃん






仕事を終えて、電車に乗り

自宅最寄の駅に着く。



歩きなれた道を歩きながら、
フっと
おばあちゃんのことが頭に浮かぶことが ある。






おばあちゃん(父方)は、90をとっくに
過ぎていて
今は、実家でほぼ寝たきり。



でも、耳もよく聴こえるし
杖があればヨロヨロとは歩けるし、
元気だ。




ただ…
ここ数年、おばあちゃんはすごく老いた。


昔は、骨太でデップリしていたのに
本当に小さくなって……


性格は、気丈で強い人で
わたしも子供の頃、何度か怒られて
怖い思いをした。






私は、実家から遠いところに住んでいる。



おばあちゃんに会えるのは、1年に1回か2回だ。




そのときよくおばちゃんは


「髪を切ってくれんかねー」


と言う。



私は、縁側に新聞紙を敷いて
その上にイスを置き、おばあちゃんを座らせる。



ビニールをおばあちゃんの身体に巻きつけ
髪を服に付かない様にする。



おばあちゃんは、私に身を任せて
赤ちゃんのようだ。


ネコっ毛で、白い髪をすくって、ハサミで
切る。

すくって、切る。


サクッ




サクッ



ちゃんと左右対称になっているかな。
変じゃないかな。



サクッ




サクッ



そして仕上げには、カミソリで首まわりの
髪の毛を整える。



…このくらいでいいかな。



「はい、終わり」

「はぁ〜ありがと。さっぱりした〜、ありがと」





毎回、同じ事を言うおばあちゃん。






自宅には、父も母もいるのに、なぜか
散髪はわたしに頼んでくる。




1回、短期間実家に帰ったときに
散髪をする約束をしていたのに、できないまま
東京に戻ってきてしまったことがある。


新幹線の中で、とても胸が痛くなった。











「おばあちゃんは、いつどんなことがあるか分からないから
 あなたも覚悟しておいてよ」



と、母。




そうだ、

90を過ぎて、まだ元気に生きてくれていることは
すごいんだ。





おばあちゃんは動けないのに、電車に乗って
どこにも行けないのに、

私は、ドコにでも行ける。



私は、おばあちゃんの傍にいない。

おばあちゃん、ごめんね。






私が東京に戻る挨拶をすると、おばあちゃんは
シワシワの手で私の手を包む。


そして力を込めて

「元気でな。元気でな」



そして、泣く。


ごめんね、おばあちゃん。


私も毎回、泣いてしまう。





車に乗り込もうとしていると、手押し車を
押しながら車のある場所まで
トコトコ歩いてくる。



そして、そのおばあちゃんの姿が
小さくなる。





おばあちゃん、私は、おばあちゃんや家族に
いっぱいの愛情をもらって
育ってきました。



ありがとう。 ありがとう。



離れ離れで暮らしていて、ごめんね。







でも、おばあちゃんや家族が大事に思って
くれているからこそ、

わたしは
ここで暮らし、生きているよ。