肉体労働男性の泥っぽくて熱い色気が匂い立つ〜『東京湾景』吉田修一





映画「悪人」で吉田修一を知った。


誰かのレビューで「吉田修一の小説には肉体労働者である男性がよく登場する」
とあって興味があった。

「悪人」の彼も肉体労働者だ。


そこでこれを借りた。


東京湾景

東京湾景



とても、良かった。


先に読んでいた「パレード」の筆致が私には合わず
吉田修一はちょっとな〜なんて思っていたけれど、
「パレード」が独特なだけで
東京湾景」は「悪人」の雰囲気に近くて安心した。



しかしここに登場する亮介がどうしても妻夫木くんと重なる。

亮介を思い浮かべるときすぐに妻夫木くんとしてリアルに現れる。


(それだけ「悪人」での妻夫木くんの演技は素晴らしかったのだなぁと思う)



東京湾景」の舞台、品川埠頭・お台場・品川駅・羽田…りんかい線ゆりかもめ
なじみがある場所だけに景色が頭に浮かぶ。


開発が進んだ近代的な部分と、
泥臭い部分、
そしてお台場のような見せかけだけ楽しそうな部分、
あのあたりを舞台にしたのは成功していると思う。

(この作品は、リアルに想像できるか否かという点で
都内の人と地方の人では
若干受け取り方が変わるかも)




亮介の言葉。


リアルで、
まるでそこに生きているような。


本当にいそうな25歳。



出会い系サイトで知り合った男女が「まずは肉体で結びつく」っていう関係
「悪人」も同じようなものだったし、吉田修一はこのモチーフが好き…というか
あえてここにこだわっているのかなぁと思った。


そして倉庫で荷物を運んでいる亮介の像が素晴らしい



難しい言葉は使わず
感覚的に発言する。



高校の担任と付き合っていたことを聞かれ
「どんな人だった?」
「ふつうだよ、ふつうの女」
とか、ぶっきらぼうに答えるやりとりは
「小説言葉」が使われていなくて
亮介像を完璧に表現していた。





体温が通った会話で。

鳥肌が立ちそうだった。




世間を斜めから見ているかと思えば、
恋愛に関してはいきなり熱いところを見せる。



彼にとってセックスは観念的なものではない。



「抱かれているときの女の顔」を観ることが
「情」が最高潮に達する瞬間、
と言う。



厭世的に生きているように
見える
25歳の男。


彼の性格や考え方を、浮き彫りにはしないのは
あえて、だろう。





でも
(たぶん)
肉体労働で適度に引き締まった細めの身体、
軽く茶色い髪、
タバコを吸うけだるさ、
ほうっておけない姿、
それが文章から匂い立つ。

(妻夫木くんが想定されてしまうからかもしれないけど)


色気にくらくらしそうだった。




お台場のビルで働くキャリアウーマンの美緒。



それが彼の魅力であり、「匂い立つ」のが
素晴らしいと思った。





そんな彼女が亮一に
ひかれるのも分かる気がした。




言葉の並べ方、出来事、人物像…

すべてが魅力的で2回読み返してしまった。




うん、良かった。