自分勝手で魅力的な人




【 誰かに聞いて印象深かった話を書きます 】

ちょっと切ない夢を見た。高速のサービスエリアでむかし色々あった人とすれ違ったのだ。それだけなんだけど。寝起きがすこぶる切なかった。

その人はとても自由で、とても自分勝手で、とても魅力的だった。だからこそどうしようもないオトコだった。初対面なのにかなり失礼な発言をし、でもそこに「人に気を遣わない」、「自分がある」人のように思わせるチカラがあった。自分があるからこそ譲らないし他人を振りまわしていることに気づかない困ったちゃんなのだ。
私はそんな人を好きになってしまった。その人も、好き、と言ったけれどその程度は分からない。私はその人の好き、をあまり信じていなかった。
蕎麦と自動車。東京タワーの周りを走りながら笑った。朝の薄暗さとちょっとの蒸し暑さ。焼肉を食べに行って子供のころのことを話した。私は実家に帰るためカートをゴロゴロ押してその人と並んで歩いた。駐車場で「じゃ」と言って近づかれた。私は夏の帽子をかぶっていた。
その人は中小企業から大企業へ転職して数年。かなり努力をしたらしい。そして激務だった。毎日午前3時くらいまで仕事をしていた(と本人は言っていた)。月に1回は海外出張に行き、月に3か所支社を回って仕事していた。毎日朝2・3時まで仕事し、そしてまた朝8時には出勤する、なんてどういう生活なんだろう。「仕事しすぎだなー」「結婚できなかったから会社を訴えよっかなー」なんて言っていた、って、私に言うな。
約束はすっぽかすし、連絡はしてこないし、今思えばどーしよーもないのだ。私はその都度かばい、なるべく気にしないようにした。ワタシ、なんてかわいそうなんだろう(と思ったほうが良い)。単に、ただ単に、そのどーしよーもねー人をとても好きだったからだ。
2週間連絡がなくても「仕事が忙しいんだろうなー」と思うようにしていた。でも堪忍袋の緒が切れて「もう別れます、あなたとは」と宣言すると「やだやだ」と言う。そして許したのだった。何回かは。ああ、あたしもなんて懲りないんだろう、今思えば。

浮気? うんうん、そうかもしれん。でもなぜかそんな気はせず「仕事」のせいだと思っていた。私は二股でもかけられていたんだろうか。そうかもしれん。でもアタシは馬鹿みたいに「仕事」と信じていたのだった。まぁ仕事であれ誰かほかの女性であれ、よく分からんが、いずれにせよ、彼の中では私の優先順位は低かったってこと、それだけだ。

自分も、そして誰かのことも大事にできる人が一番いい。できないのならその片鱗は見せないで。気まぐれでそのふりをしないで。なんて思うわ。

しかしだからこそとてつもなく魅力的だったのだ。笑えるくらいの適当さ、にがそうにタバコを吸う横顔、酔っ払って電車に携帯も財布も落としてきてしまうなんてところ、起きた時間で行動するダメさも。全然かっこいいんじゃなく。なんだかなんだか気になると逃さない人だったのだ。ズルイ。ただ、それが良いと思っていた若いアタシでもあったのだ。

でもあの人は自分しか好きになれないんだろう。今は誰かを大事にできてるかな。うん。懐かしいな。