止まっていた車椅子





少し前の、会社帰りの駅でのこと。

ホームの脇に車椅子に乗ったおばあさまが1人。そばには誰もいない。


そのおばあさまはずっとそこに停止したままで、動かない。
どうしてだろ。




周りは、気ぜわしく電車に乗り込む人たちが通り過ぎていく。



車椅子の前にまわってかがんでから
「だいじょうぶですか?」と聞いてみると


「こんな混んでいる時間に電車に乗ることがなくて。
(車椅子では)みなさんの邪魔になるからどの電車に乗ればいいか
分からなくて」

そこで止まって思案されていたらしい。


で、何本かあとの混んでいない各駅停車で
途中までご一緒することにした。


久しぶりに押す車椅子。
小さなおばあさまの背中。


電車に乗っている20分程の間、お話をした。


おばあさまの降りる駅で車椅子を押しておろしてから、
さらに階段…と思ったらさすがにわたし1人では無理なので
駅員さんに手伝ってもらって、
改札までお送り。


別れ際
「本当にね、ありがとうございました。本当に、ご親切に…」
と言いながら、ほんわかした笑顔で手を合わせてくださった
おばあさま。


ちょっと泣きそうになった。


でも、良かった。
あのまま気になりながら車椅子の横を通り抜けていたら、
わたしきっと、心が痛かった。



そういえば昔、これまた駅の昇り階段の一番下で
重そうな荷物を持って上がろうかどうしようか迷っておられた
おばあさまがいて。


一瞬通り過ぎて階段を昇り始めて、やっぱり気になった。
隣にいた友達に「ちょっと待って」と言ってから
階段の下に戻っておばあさまの荷物を持って上がった。


「ちょっと戻って」でも、
気になることは、やりたいしやったほうがいい。
そうだ、いつもそう思うんだ。




美談を述べたいとかそういうことではなくて。
ただ、私のために、やるだけのことで。


むしろ
東京のどこかでそういう困った人がいて
周りが手助けをしない状況があるのであれば、
できたら私の前にその状況があればいいのに、と思うことすらある。
おごりかもしれないけれど。

でも、1人の人でも、
ほんの少しのお手伝いでもできるのであれば。






またあのおばあさまが、
不自由な思いをすることなく、電車に乗れればいいなー
って、ふと、思う。